今回はマイコンのプログラミングで押さえておきたいタイマー回路について解説します。厳密な時間管理の元、同期して様々な処理を実行することが求められるリアルタイムコンピューティングで必須の知識となりますので、ぜひ参考にしてみてください。
タイマーの基本動作
タイマー回路は、組み込みシステムにおいて重要な役割を果たしています。タイマーは、一定の時間間隔で特定のイベントやタスクを実行するために使用される電子回路です。組み込みマイコンでは、タイマー回路が様々な目的で活用されており、例えばデバイスの電源管理やタスクのスケジューリング、計測などに使われます。
タイマー回路の基本動作は以下の通りです。
クロック信号の入力
タイマー回路は、マイコンのクロック信号を基準として動作します。このクロック信号は、一定の周波数でパルスが発生することで、タイマーのカウントが行われます。
カウント
タイマー回路は、クロック信号のパルスに従ってカウントを行います。カウント値は、通常内部のカウンタレジスタに格納されています。カウントアップ方式とカウントダウン方式の2つのタイプがあります。
カウントアップ方式
クロック信号のパルスごとにカウンタレジスタの値が増加します。カウンタレジスタが設定された最大値に達すると、0に戻り、再びカウントが始まります。
カウントダウン方式
クロック信号のパルスごとにカウンタレジスタの値が減少します。カウンタレジスタが0になると、設定された最大値に戻り、再びカウントが始まります。
比較・一致
タイマー回路には、通常比較レジスタが存在します。カウンタレジスタの値が比較レジスタの値と一致した場合、特定のアクションがトリガーされます。このアクションは、割り込みの発生やピンの状態変化など、用途に応じて設定することができます。
割り込み
タイマー回路は、設定された条件に従って割り込みを発生させることができます。例えば、カウンタレジスタの値が比較レジスタの値と一致した場合に、CPUに割り込みを通知することができます。これにより、特定のタスクやイベントの実行がタイミングに合わせて行われます。割り込みを使用することで、マイコンは他のタスクを実行しながら、タイマーによってトリガーされたイベントに対応できます。
リセット
タイマー回路のカウント値は、条件に応じてリセットされます。通常、カウンタレジスタの値が設定された最大値に達するか、比較レジスタの値と一致したときにリセットされます。リセット時には、カウントが0から再スタートし、新たなタイミング周期が始まります。
タイマーの設定
タイマー回路は、さまざまなパラメータを設定することができます。例えば、クロック信号の分周比、カウントアップ・カウントダウンのモード、比較レジスタの値、割り込みの設定などです。これらの設定により、タイマーの動作を用途に応じてカスタマイズすることができます。
以上が、組み込みマイコン等で使用されるタイマー回路の基本動作です。タイマーは、組み込みシステムの構築において非常に重要なコンポーネントであり、正確なタイミング制御やイベント駆動型プログラミングに欠かせない機能を提供しています。
コンペアマッチ動作
コンペアマッチ(比較一致)動作は、タイマーの一般的な機能であり、タイマーのカウンタレジスタの値が特定の設定値(比較レジスタに格納された値)と一致したときに発生します。コンペアマッチ動作は、タイマーが特定のタイミングでイベントをトリガーすることを可能にします。以下に、コンペアマッチ動作の詳細について説明します。
カウンタレジスタと比較レジスタ
タイマーは、内部のカウンタレジスタでクロック信号に基づいてカウントします。一方、比較レジスタは、コンペアマッチ動作の条件を設定するために使用されます。これらのレジスタは、通常、タイマー回路内に存在し、プログラムでアクセスおよび設定が可能です。
コンペアマッチ条件
タイマーがカウントアップまたはカウントダウンを行っている間、カウンタレジスタの値が比較レジスタの値と一致するかどうかが監視されます。一致が検出されたとき、コンペアマッチが発生し、設定されたアクションがトリガーされます。
コンペアマッチ動作
コンペアマッチが発生すると、さまざまな動作が実行されます。これには、以下のようなものが含まれます。
- 割り込みの発生: CPUに割り込みを通知し、割り込みハンドラを実行することができます。これにより、特定のタスクやイベントをタイミングに合わせて実行できます。
- ピンの状態変化: GPIOピンの状態を変更することができます。例えば、デバイスのオン/オフ制御やLEDの点滅などが可能です。
- タイマーのリセット: カウンタレジスタの値をリセットし、新しいタイミング周期を開始します。
- PWM信号の生成: デューティサイクルを変更することで、PWM信号を生成できます。これは、モーターコントロールやアナログ信号の生成などに使用されます。
連続的なコンペアマッチ動作
コンペアマッチ動作は、タイマーが動作している間、連続的に発生することができます。カウンタレジスタの値が再び比較レジスタの値と一致するたびに、コンペアマッチアクションがトリガーされます。これにより、定期的なイベントやタスクの実行が可能になります。
プログラムによるコンペアマッチ動作の設定
タイマーのコンペアマッチ動作は、プログラムによって設定および制御できます。比較レジスタに値を設定することで、コンペアマッチが発生するタイミングを調整できます。また、タイマーのクロック分周比やカウントモードを設定することで、タイマーの動作を用途に応じて最適化できます。
タイマー割り込みの優先順位
タイマー割り込みは、通常、他の割り込みと共にシステム内で使用されます。割り込みの優先順位を設定することで、重要な割り込みが他の割り込みに妨げられずに実行されることが保証されます。タイマー割り込みの優先順位は、プログラムで設定できます。
タイマーによる省電力機能
タイマーのコンペアマッチ動作は、マイコンの省電力機能にも利用されます。例えば、タイマー割り込みを使って定期的にシステムをスリープ状態から復帰させることができます。これにより、システムの電力消費を効果的に低減することができます。
タイマーのコンペアマッチ動作は、組み込みシステムにおいて非常に重要な機能であり、タイミング制御やイベント駆動型プログラミングにおいて中心的な役割を果たしています。正確なタイミングでのタスク実行や、特定のイベントのトリガーなど、多くの応用が可能であるため、組み込みソフトウェアエンジニアはこの機能を理解し、活用することが重要です。
インプットキャプチャ動作
インプットキャプチャ(Input Capture)は、タイマー機能の一種で、外部信号のエッジ(立ち上がりまたは立ち下がり)を検出し、その瞬間のタイマーのカウント値をキャプチャする機能です。この機能は、外部イベントのタイミング測定や信号の周波数・パルス幅計測に使用されます。
インプットキャプチャ動作の詳細について説明します。
インプットキャプチャピンの設定
マイコンには、インプットキャプチャ機能をサポートする専用のピンがあります。これらのピンは、GPIOとして設定されたり、他の機能として設定されることもあります。インプットキャプチャ機能を使用するためには、適切なピンを選択し、入力キャプチャ機能に設定する必要があります。
エッジ検出の設定
インプットキャプチャは、外部信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを検出することができます。どちらのエッジを検出するかは、プログラムで設定することができます。また、両方のエッジを検出する設定も可能です。
カウント値のキャプチャ
エッジが検出されると、その瞬間のタイマーのカウント値がキャプチャされます。キャプチャされた値は、キャプチャレジスタに格納されます。これにより、プログラムは後でキャプチャされた値を読み取り、信号のタイミングや周期を計算できます。
割り込みの発生
エッジが検出されると、インプットキャプチャ割り込みが発生することができます。これにより、エッジ検出の瞬間に特定のタスクやイベントを実行できます。割り込みハンドラ内でキャプチャレジスタの値を読み取り、必要な処理を行うことができます。
応用例
インプットキャプチャ機能は、以下のような応用が可能です。
周波数計測
2つの立ち上がりエッジ(または立ち下がりエッジ)間のカウント値の差を計算することで、信号の周波数を計算することができます。周波数は、1 /(エッジ間の時間)で求められます。タイマーのクロック周期を考慮して、実際の時間を計算する必要があります。
パルス幅計測
立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの間のカウント値の差を計算することで、信号のパルス幅を測定できます。これは、パルス幅変調(PWM)信号のデューティサイクルを測定する際に使用されることがあります。
タイミング測定
外部イベント(例えば、センサーの信号)とマイコン内部のタスクとのタイミングを測定するために、インプットキャプチャ機能を使用できます。これにより、システムの応答性や性能を評価することができます。
位相計測
2つの異なる信号の立ち上がりエッジ(または立ち下がりエッジ)間のカウント値の差を計算することで、信号の位相差を測定できます。これは、位相差を考慮する必要があるアプリケーション(例えば、モーターコントロール)で使用されます。
インプットキャプチャ機能は、組み込みシステムにおいてタイミングや信号解析に非常に重要な役割を果たしています。この機能を理解し、適切に設定および制御することで、高度な制御や信号処理が可能になります。組み込みソフトウェアエンジニアは、インプットキャプチャ機能を活用することで、システムの性能や信頼性を向上させることができます。
ウォッチドック
ウォッチドッグタイマ(Watchdog Timer, WDT)は、組み込みシステムの信頼性と安定性を向上させるために使用されるタイマー機能の一種です。ウォッチドッグタイマは、システムが正常に動作していることを監視し、異常が検出された場合にシステムをリセットまたは他の適切なアクションを実行します。これにより、ハングアップや無限ループなどの問題が発生した場合でも、システムが自動的に回復できるようになります。
ウォッチドッグタイマの動作について以下に詳しく説明します。
ウォッチドッグタイマのカウント
ウォッチドッグタイマは、独立したクロックソースによってカウントアップまたはカウントダウンを行います。タイマーは通常、リセット時に自動的に開始され、特定の時間間隔(タイムアウト期間)ごとに満了します。
タイムアウト期間の設定
タイムアウト期間は、プログラムで設定できることが一般的です。システムの要件に応じて、タイムアウト期間を短くしたり長くしたりすることができます。タイムアウト期間が短すぎると、システムが誤ってリセットされるリスクがありますが、タイムアウト期間が長すぎると、システムの回復時間が遅くなる可能性があります。
ウォッチドッグタイマのリフレッシュ
システムが正常に動作している場合、プログラムは定期的にウォッチドッグタイマをリフレッシュ(リセット)する必要があります。これにより、タイマーのカウントがリセットされ、タイムアウトが回避されます。リフレッシュは、通常、システムのメインループ内で行われます。
タイムアウトの検出とアクション
プログラムがウォッチドッグタイマをリフレッシュしない場合、タイマーはタイムアウトし、設定されたアクションが実行されます。一般的なアクションは、システムのリセットですが、割り込みを生成することもあります。これにより、システムがハングアップや無限ループから自動的に回復し、正常な動作に戻ることができます。割り込みを生成する場合、割り込みハンドラ内でシステムの状態を診断し、適切な回復処理を行うことができます。
ウォッチドッグタイマの設定と制御
プログラムでウォッチドッグタイマを設定および制御することができます。タイマーのクロックソース、タイムアウト期間、アクションなどのパラメータを設定することができます。また、タイマーの有効化・無効化を制御することもできます。
ウォッチドッグタイマの役割
ウォッチドッグタイマは、以下のような役割があります。
- システムの安定性向上: ウォッチドッグタイマにより、システムがハングアップや無限ループから自動的に回復できるため、システムの安定性が向上します。
- システムの信頼性向上: ウォッチドッグタイマを使用することで、システムのダウンタイムを最小限に抑えることができます。これにより、システムの信頼性が向上します。
- エラー検出と診断: ウォッチドッグタイマがタイムアウトした場合、システムに問題が発生している可能性が高いため、エラーログに記録することで、問題の特定と解決が容易になります。
ウォッチドッグタイマは、組み込みシステムにおいて重要な役割を果たしており、システムの安定性と信頼性を向上させることができます。組み込みソフトウェアエンジニアは、ウォッチドッグタイマの機能を理解し、適切に設定および制御することで、システムの品質を高めることができます。
まとめ
今回はタイマー回路の基本的な動作について解説しました。このタイマーからの信号を使った割り込み処理の実装方法等をまた別の記事で解説していきたいと思います。
それでは、また次の記事でお会いしましょう。
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